本研究は、フラクタルという概念を横軸、物理学を主軸に異分野を結合することで、フラクタル研究の新たな方向性を確立することを目的にしている。平成20年度に行った研究は、多自由度フラクタル系に対する理論的考察をもとに大規模シミュレーションや大規模数値解析を行った。アルゴリズムの開発、そしてこれを適用し、物理系ばかりでなく他分野にも共通するフラクタル構造形成メカニズムの普遍性の解明を行った。実在する多くの複雑ネットワークは秩序相にあるため、有限の相関長よりも短いスケールではフラクタル構造を取り、それより長いスケールではスモール・ワールド性を有する。平衡系臨界点近傍におけるフラクタル性の揺らぎの解明と、複雑ネットワークにおける臨界性とフラクタル性の関係を解明した。特に、本年度は、臨界系の構造揺らぎ、具体的にはフラクタル次元の揺らぎに対して、普遍的な法則が見られるか否かを19年度に続き大規模数値計算により調べた。その結果、臨界系における非フラクタル構造の発現のため、そのような普遍性は厳密には存在しないが、揺らぎの分布関数はユニバーサリティ・クラスには殆ど依存しない事、ネットワークの相関長が発散する点において特徴的ネットワーク距離を持たないフラクタル構造が出現する事が分かった。
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