研究概要 |
厚さがナノメートルオーダーの薄膜(ナノ薄膜)の力学的性質を正確に計測することは,ナノ薄膜を用いたデバイスの健全性評価という実用的な理由だけでなく,物質の原子数が一方向に極端に減少したときの力学的性質の変化という学術的な興味も深い.我々は,フェムト秒パルスレーザーを利用して,薄膜内に数十〜数百GHzという超高周波の弾性波を励起し,その音速を計測することにより,ナノ薄膜の弾性率評価および健全性評価を行った. 試料として, Cu, Pt, Pbなどの単層薄膜,およびCo/Pt, Fe/Ptなどの超格子薄膜をマグネトロンスパッタリング法により成膜した.レーザー超音波法において計測される量は,パルス弾性波が薄膜内を伝ぱする伝ぱ時間および弾性波共鳴の共鳴周波数であり,膜厚が既知でなければ弾性定数を決定することができない.そこで,X線全反射率法によって膜厚を決定した. 様々な膜厚や基板,熱処理に対して,ナノ薄膜の弾性定数を測定した結果,ほとんどの薄膜において,弾性定数がバルク値を下回った.これは,薄膜が成長する過程において,粒子が成長し結合するが,結合界面における結合力が弱いことに起因すると考えた.結合界面の体積分率は小さいが,界面領域のアスペクト比は大きく,不完全結合部を高アスペクト比・低弾性率を有する介在物としてモデル化し,これがもたらす弾性定数の低下をマイクロメカニクスによって計算した.その結果,わずか体積分率がわずか0.1%程度の介在物においても,弾性定数が数十%低下することが判明した. ナノ薄膜においては,高アスペクト比・低弾性の欠陥領域が形成されることが多く,これらは顕微鏡観察では検出が困難である.しかし,弾性定数はこれらの介在物に感度が高いため,弾性定数を用いたナノ薄膜の健全性評価の有効性を確信した.
|