研究概要 |
膜厚がナノメートルオーダーのナノ薄膜の弾性定数は,弾性波フィルタやMEMS・NEMSデバイスの設計において重要な設計パラメータであり,正確な計測法の確立が望まれている.我々はピコ秒レーザー超音波法を用いて,薄膜内に超高周波の超音波を発生させ,これまで困難とされてきた10nm程度の膜厚の薄膜の弾性定数を計測する手法を開発した. 平成21年度においては, おもにPtやPbなどの貴金属薄膜の低温における弾性定数計測のためのシステムを構築した.試料をクライオスタットヘッドに設置し,ヘッドそのものを光学系に取り入れ,ガラス窓を介してレーザー光を試料に照射するシステムである.まずは半導体温度検出素子によりどの程度温度低下が可能かを調べたところ,レーザー照射を継続的に行った場合においても約8Kまで温度を低下させることができた.そこで,室温~8Kにおける広範囲の温度域において,ピコ秒レーザー超音波計測を行う計測法を確立した.PtとPdに対して弾性定数を低温域で計測したところ,バルクとは異なる傾向を示した.両者ともバルクにおいて報告されている弾性定数の変化率が室温に比べて極低温では僅かに1-2%程度であるにもかかわらず,薄膜の場合は,5%以上の変化率を示した.これは新しい理論モデルの構築の必要性を強く示唆する結果を得た.原因の一つは,原子間ポテンシャルの非線形性にある.つまり,極低温においては貴金属薄膜は基板との線膨脹係数の差異により面外方向に大きく縮んでおり,原子間距離が低下している状態となる.原子間ポテンシャルは原子間距離が縮まる場合に大きくエネルギが増加するため,見かけの弾性定数も増加する.これにより,薄膜の場合は極低温において弾性定数が大きく増加する可能性がある.
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