研究課題
固体表面に存在する不対電子のことをダングリングボンド(未結合手)と称するが、エネルギー的に不安定なため、極めて化学的に活性である。したがって、相対する二つの表面間における凝着力や摩擦力を発生させる、いわばトライボロジーの根源的な要因であると考えられる。しかしながら、その測定の困難さや外的雰囲気の影響のため、このような研究は一切行われていない。ダングリングボンドを定量的に検出する方法は電子スピン共鳴(ESR)しか存在しないが、表面でなく母材敏感であることと、測定は大気中に限られることが大きな障害であった。本研究では、体積一定で表面積を変化させ厚さをゼロに内挿することで前者の問題を、10^<-5>Paの高真空でESR測定を行うことで後者の問題を解決するという革新的方法を開発した。先進炭素材料を対象に、トライボロジーに及ぼすダングリングボンドの影響を調べた結果、グラファイトにおいては摩擦の進行とともにESR強度と摩擦力が相関を持って増加すること、フラーレンC_<60>やオニオンライクカーボン(OLC)では破砕時間とESR強度に相関があることを示した。この原因は、表面の変形と破壊によってダングリングボンドが増加し、その結合による表面間力の増大によって摩擦が上昇することによるものと結論づけた。高配向熱分解グラファイト(HOPG)を用いて、表面ダングリングボンド数を定量化し、真空中では1×10^5/mm^2、大気中では6×10^4/mm^2のダングリングボンドが表面に存在することを明らかにした。このことは、大気中における気体のダングリングボンドへの吸着が顕著であることを示しており、ダングリングボンドの手の繋ぎ合いによる摩擦の素過程を解明するたあには今回開発した真空ESRは不可欠であることを明確に示唆している。
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