血管壁の表面に存在する糖鎖層の生理的意義に関し、(a)血管壁を介する物質輸送、(b)血球への潤滑作用、の2点について、流体力学的観点から調べた。(a)については、最近得られた、糖鎖層と微小血管壁の微細構造を基にして、血管内腔から血管外組織にいたる物質輸送経路の微視的モデルを作成した。構築したモデルを用いて、まず、血管内腔と血管外組織の間の圧力差による媒質のみの流れを解析した。その結果、流量と圧力差との比として定義される、微小血管壁の透過率は、動物実験により得られた計測値とほぼ同じ値となり、実験結果を説明するモデルとなっていることが示された。また、微小血管壁の流体抵抗は、ほとんどが内皮細胞間隙に起因し、糖鎖層の寄与は従来の評価に比べ、かなり小さいことが示唆された。これは、溶質の輸送について、糖鎖層が分子フィルターとして本質的な役割を果たしていることと対照的である。次に、溶質の濃度差がある場合について、溶質分子の拡散と移流による移動、および浸透圧による媒質の移動を記述する方程式を定式化した。(b)については、細静脈壁に粘着した白血球の観察結果をもとに、白血球モデルを作り、その周りの流れ場を数値的解析により調べた。粘着白血球に作用するせん断応力分布と、マイクロPTV法を用いて動物実験から得られた結果を比較したところ、両者は定性的に一致するが、定量的には差異が見られ、その原因について、赤血球の存在や糖鎖層の影響を考慮にいれて現在検討しているところである。
|