本研究は、Ag-As-SeやAs-Se系カルコゲナイドガラスの高い非線形性とガラス固有の優れた加工性を利用して、全光学形の超高速光スイッチと光双安定デバイスの実現を目指すものである。 本最終年度は、光リソグラフィと光ドーピングを利用してストリップ装荷型導波路からなる非線形方向性結合器と非線形リング共振器を試作し、線形及び非線形特性を明らかにし、更に実験結果と導波シミュレーションの比較・検討を行った。昨年度、Z-スキャン法に入射パルス幅の依存性を取り入れた新技術により、As-Seガラスに対して光誘起現象に起因すると思われる遅い非線形性が存在することを見い出しているが、Ag-As-SeとCu-As-Seガラスに対しても同様に詳しく調査した。またそれらの応答速度は15-20msであることを過渡吸収実験により明らかにした。この遅い非線形性はデバイスの非線形特性に影響を与えるが、入射パルス幅を狭くするとその影響を軽減できる。試作したリング共振器(半径100μm)にモード同期・QスィツチYLFレーザからの強い光パルス(波長1.053μm、パルス幅60-600ps)を入射し、透過光パルスの波形を観測して、デバイスの入出力特性を求め、特徴的なヒステリシスループを得た。遅い非線形性を考慮して、これまで得られた物理諸定数を用いた現時的なシミュレーションを行い、そのヒステリシスループはデバイスの光双安定性によるものであることを明らかにした。 誘導ブリルアン散乱は光カー効果と同じ三次非線形光学現象であり、ロングパルスに対して非線形デバイスが動作するかどうかの限界を決める一つの要因となるので、非線形デバイスの研究と並行して、YAGレーザからのパルス圧縮されたレーザ光を用いて、As_2S_3マルチモードファイバの誘導ブリルアン散乱の実験を行い、その過渡特性を明らかにした。 本研究では、全反射を利用した光導波路から構成される光デバイスの開発を目指しているが、デバイスの小型化の観点から、フォトニック結晶化の検討も行い、光パワー分割器、リング共振器を使ったチャンネル・ドロップ・フィルタと光双安定デバイスに関して、幾つか成果を上げた。
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