研究概要 |
東京湾や三河湾をはじめとする大都市に隣接した内湾域には,埋立のための土砂を採掘した跡である浚渫窪地が点在している.浚渫窪地は著しい滞留海域となっており,初春から晩秋まで恒常的に大規模な無酸素水塊が存在する劣悪な環境にあり,しばしば青潮の発生源として認識されている.しかしながら,浚渫窪地の青潮影響には不明な点が多く,浚渫窪地の埋め戻しが効果的であるかどうかは未知数である.そこで本研究では浚渫窪地の青潮影響を科学的に解明することを目的としている.本年度は昨年度に引き続き,東京湾における硫化物を含む水質・底質モニタリングを実施した.本年度は特に過去にほとんど調査事例のない,航路筋における硫化物等の水質調査を実施し,航路筋における無酸素水塊の動態を明らかにし,青潮との関連を議論する上で重要なデータの取得を行った.本調査により,航路筋に存在する無酸素水塊が港内およびその周辺における青潮の原因となることをデータでもって示すことができた.また,底質調査および底質を用いた実験により,硫化物の生成速度,硫化物を含む海水の酸化速度の定量化を行った.一方,硫化物を含む流動・水質・生態系場の動態を再現可能な数値モデルの開発を進めた.ベースモデルとして世界的に定評のあるDHIのMIKE3を採用し, Ecolabを用いて独自の生態系モデルを構築した.本モデルを用いた2007年の精密再現計算を行い, 2007年の千葉灯標におけるモニタリング結果と比較することにより,モデルの妥当性を検証すると共に,改善すべき点を明らかにした.本モデルを用い,硫化物動態を再現すると同時に,実際に発生した青潮の再現を行い,浚渫窪地および航路筋の硫化物が青潮に与える寄与割合を定量的に評価することが可能となった.さらに本モデルを用いて,浚渫窪地の水環境改善施策の一つとして,導水技術の適用を検討し,基礎的知見を得た.
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