女性の経済力(雇用上の地位、所得等)と住宅条件の関係を明らかにするため、全国消費実態調査のミクロデータを用い、その独自集計を行った。その結果、女性の経済力は世帯の経済力を規定する因子となっており、そのことが世帯の住宅所有形態に明確に影響することが明らかとなった。伝統的な「男性稼ぎ主」型世帯では、夫の所得が多く、持家率が高い。しかし、夫婦ともに正規雇用の世帯では、世帯所得がより多く、持家率がいっそう高い。また、夫が低所得の世帯では、妻の多くが就労しているが、その大半は非正規被用者で、持家取得が容易ではない状况がある。これらの点は、夫の経済力をもとに世帯の経済力を推定する従来の社会階層論に対し、妻の経済力に注目する必要を示唆し、住宅条件の分析のあり方に関して新たな視点を提供するものである。 また、昨年度までの分析結果と今年度の作業結果を総合し、住宅理論を女性の経済的地位に着目して組み立て直すことの有効性を明らかにした。持家の取得と維持に関する伝統的な分析手法は、社会階層論との密接な関運をまつ。しかし、既往の分析手法は、「男性稼ぎ主」の経済力を主な指標とし、世帯単位の経済力を重視するものである。これに対し、本研究では、女性個人の経済力が世帯の経済力を規定する度合いが上昇し、住宅条件の階層分化を促す新たなドライバーとして重要性を増している点を実証し、それを通じて、世帯主だけではなく、女性に着目する必要、そして世帯単位分析だけではなく、個人単位分析を進める必要を示した。このことは、住宅理論の根本的な組み替えの有効性を示すものである。
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