本研究の目的は、最近開発された多くの熱電材料の設計指針となってきたPhonon Glass Electron Crysta至とは本質的に異なる設計指針(Weakly Bonded Rigid Heavy Clusters、WBRHC)を提案し、その有効性を実証し、新しい設計指針を確立しようとするものである。 本年度は、上記の設計指針の有効性を実証するため、昨年度のAlPdRe準結晶に続き、AlPdMn準結晶への他元素置換の研究を行った。AlPdRe準結晶では、アーク溶解・熱処理後、プラズマ放電焼結による組織の改善により最大無次元性能指数が0.5から1.5に約3倍になったが、AlPMn準結晶では、アーク溶解・熱処理のみで緻密な組織が得られ.より大きい最大無次元性能指数0.18が得られた。 次に、この試料に、WBRHCの設計指針により、クラスター間の結合を弱めるために、AlのGa置換を行い、熱電性能の向上に成功した。MEM/Reitveld法による電子密度分布測定により、周期表で、遷移金属では上に行くほど、典型金属では下に行ぐほど、共有結合性が弱くなると考えられる。無次元性能指数ZTの最大値は、Ga置換により約1.4倍になり、これまで準結晶で報告されている最大の値より大きい0.26にまでなった。 より詳細に検討すると、Ga置換量が最大で4原子%と少なかったため、電気伝導率とゼーベック係数は、ほとんど変化しなかった。したがって、性能指数向上の原因は、WBRHCの設計指針から予測された音速の減少と、不純物によるフォノン散乱の増加により、熱伝導率が減少したことである。
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