研究概要 |
前年度に本体を製作した力学損失スペクトロメターに真空排気系を取り付け,真空中での測定が可能となった.次に,電気炉と温度制御系を設計・製作して取り付け,当初の目的である広い温度範囲(室温から約800℃)での測定が可能となった.この装置を用いて,以下の研究を行った. (1)金属ガラスの構造緩和のカイネティクスの研究 (2)巨大磁歪を有するFe-Ga固溶体合金の制振材料への応用の可能性の検討 (3)金属間化合物およびセラミックス結晶における点欠陥の挙動の研究. 研究(1)では,MEMSなどへの応用が期待されているジルコニウム基のバルク金属ガラス材料(Zr-Al-Ni-Cu合金)がガラス転移温度よりも低い温度で時効される際におこる構造緩和現象を動的弾性率のその場測定により調べ,その原因となる自由体積の減少速度を精密に測定することに成功した.研究(2)では,この固溶体合金が磁気弾性効果により10^<-2>のオーダーの大きな力学損失を示すことを再確認したが(研究代表者らが2005年に初めて報告),キュリー温度(約700℃)まで温度によらず保たれるであろうという予想に反し,300℃〜400℃において不可逆的に低下することを見出した.この低下の原因はバイアス応力による磁壁の消失あるいは点欠陥による不動化であることを示唆する実験結果を得ており,広い温度範囲で制振材料として利用する際にはそれを抑制することが課題となる.研究(3)では,ある種の規則構造をとる結晶中に存在する内在的点欠陥が単独で応力誘起再配向し,その結果として特徴的な力学緩和現象を引き起こすことを利用して,その点欠陥の同定・定量と易動度の評価ができることを実証した.
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