産業技術の高度な発達に伴い、多くの産業分野で、熱膨張抑制に対する強い要請がある。本基盤研究では、ガラス系ゼロ膨張複合材料を中心とした従来材料では難しかった、精密加工など力学的負荷の大きなプロセス分野での利用をも可能にする高強度の汎用ゼロ膨張セラミック材料の開発を目指し、構成元素の種類やその比率の調整により熱膨張特性が自在に制御できる逆ペロフスカイト型マンガン窒化物を用いて、1)歪みや欠陥が入りにくく機能が安定する、2)作製プロセスが簡素で製造コストが低く抑えられる、という点で理想的な「単一物質ゼロ膨張セラミック材料」の開発に取り組む。初年度の平成19年度では、単一物質でゼロ膨張を示す、低コストのマンガン窒化物実用組成開発を達成した。本年度の研究では、組成だけでなく焼成条件の最適化もすすめ、焼成温度を高くする、焼成時の窒素雰囲気を低くするといった「脱窒素条件での熱処理」により低膨張化が促進されることを見出した。これにより、これまで当該窒化物の熱膨張制御のために用いていたゲルマニウムのような高価な元素を一切使用せず、マンガン、銅、亜鉛、スズといった安価な元素のみでゼロ膨張を達成できた。この成果は、本基盤研究が目指す単一物質ゼロ膨張セラミック材料を作製する上で最も重要な成果であり、最大の障害の一つが取り除かれたと言える。来年度以降で、曲げ強度や弾性率など、基礎的な機械的性質の評価を通じ、セラミック材料の具体的製造法の開発に取り組む。
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