研究概要 |
本研究は,ナノパルスプラズマを用いた化学気相成長法により低温度でダイヤモンド薄膜を合成する方法を開発し,摺動部材に適用してその機械的特性を評価することを目的としたものである.昨年度の電源及び装置開発の成果を基に,原料ガスとしてメタン(CH_4)を用い,これをH_2で希釈して,メタン濃度1〜10%でプラズマを発生させた.そして,フィラメント温度を通常の熱フィラメント法で用いられる2100℃から徐々に下げながらダイヤモンド膜の堆積を試みた.その結果,ナノパルスの周波数を上昇させると,薄膜が微結晶化すること,ダイヤモンドの核生成密度は周波数が0.5〜1kHzで最大となり,1.7×10^9/cm^2に達することを明らかにした.また,標準的な基板温度1000℃における合成速度は,(1)周波数0.5〜1kHzの領域ではパルス周波数に伴って合成速度は増加するが,(2)周波数1〜4kHzの領域では減少し,(3)4〜12kHzの領域で再び増加することを明らかにした.(1)については,周波数の増加により炭化水素ラジカルが生成される回数が増え,それが合成速度の増加に寄与したと考えることができる.対して(2)では,周波数が増加しパルス間隔が狭まることにより,1回のパルス印加により生成された活性種が次のパルス印加時にまだ生存していることが想定される.すなわち,残存した活性種はパルスによってさらなるエネルギーを受けることによりイオン化する.イオンは電気的引力によって基板に衝突し,膜の結晶構造を破壊する働きをしてしまうため,周波数の増加に伴って合成速度が低下したと考えることができる.これらの考察から低温下のパルス印加条件を検討し,最終的に周波数12kHz,フィラメント温度1900℃,基板温度550℃でのダイヤモンド薄膜合成に成功した.
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