研究概要 |
本研究は,溶接プロセスの十分な理解と正確な予測の実現を目指し,アーク溶接プロセスにおけるプラズマ中の金属蒸気の種類および密度の動的な空間分布変化,プラズマ温度分布の動的変化,材料への入熱密度分布の動的変化,溶融池形成の時間変化を定量的に明らかにすることを目的としたものである. 平成21年度では,プラズマイメージングシステムを用いて,静止GTA溶接プロセス中に発生する金属蒸気の動的な密度分布測定を実施するため,解析時に必要とされるプラズマ温度分布計測手法を検討した.プラズマ中の原子あるいはイオンが放射する線スペクトルからプラズマ温度を測定する手法として,Fowler-Milne法,ArII/ArI二線強度比法,ArI/ArI相対強度比法の3種類を選定した.個々について計測・解析した結果,ArII/ArI二線強度比法は高精度な温度測定が実行できるもののイオンが十分に存在する高温領域のみに限定され,一方,ArI/ArI相対強度比法は温度測定の誤差が極めて大きく,金属蒸気の密度分布解析には不適切であることが明らかになった.したがって,広範囲な温度領域において比較的精度よく安定して温度測定が実行できるFowler-Milne法が最も本研究の目的に適していることが明らかになった. 以上に基づき,プラズマ温度と金属線スペクトルの動的変化を総合的に解析することにより,ステンレス鋼の静止GTA溶接プロセス中に溶融池表面から発生する鉄,クロム,マンガンの空間密度分布の時間変化を測定することに成功した.マンガン,クロム,鉄の順にプラズマ中での蒸気濃度が高く,時間と共に増大することが明らかになった.また,金属蒸気の濃度上昇に伴い,プラズマ温度が徐々に低下することが実験的に初めて明らかにされた.さらに,本実験結果と金属蒸気の混入を考慮した静止GTA溶接プロセスの非定常数値計算シミュレーションを比較することにより,溶接プロセスにおける熱源としてのアークプラズマの役割とそれに及ぼす金属蒸気の影響を明確化した.
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