研究概要 |
Zn電解採取のような高硫酸濃度浴からのZn電析は,臨界電流密度において陰極がそれまでの水素析出電位域からZnの平衡電位まで不連続に分極することによって開始し,臨界電流密度以上の操業電流密度においては小さな電析過電圧を伴いながら高い電流効率で進行する。ところが浴中への不純物の混入により臨界電流密度が上昇し,操業電流密度を超えると,電析Znが水素析出を伴いながら溶解する。この再溶解はZn電析の電流効率の著しい低下をもたらす。一方,陰極表面を平滑にすると同時に不純物の共析を抑制するため,Zn電解採取浴には,天然由来の高分子化合物であるニカワが添加されている。高分子添加剤は陰極電位を分極させる効果があるため,不純物の混入による電析Znの再溶解を抑制することが期待されるが,添加剤の効果は不純物の種類に応じて異なることも予想される。そこで,不純物を含有したZn電解採取浴における電析Znの再溶解挙動に及ぼすPEG添加の影響を,陰極電位の経時変化,部分分極曲線により調べた。Znの再溶解に及ぼすPEGの影響は,共存する不純物の種類により異なった。不純物としてI群のCu含む浴では,PEGを添加した方が電析Znの再溶解が起こり易くなった。PEGはZnの析出を抑制するが,拡散限界で析出しているCuに対しては影響を及ぼさないため,PEG添加により電析物のCu含有率が高くなり,陰極の水素過電圧が低下したためと考えられる。不純物としてII群のNi,Coを含む浴では,PEGを添加すると水素の析出反応が抑制され,Znの再溶解が生じ難くなった。III群のSbを含む浴では,陰極電位が復極し,電流効率が大きく低下したが,PEGを添加すると電位が分極し電流効率も増加した。Zn電析の再溶解,電位の復極に対するII,III群の不純物の悪影響は,PEGの分子量,添加量が多くなるほど緩和された。
|