研究概要 |
高度100kmから1,000kmの地球超高層大気は、中性粒子がその大多数を占める。しかし、応答性が低いために、電波やレーザ等による遠隔観測が実施できない。中性大気に関する、地球規模広域で高い空間・時間分解のあるデータが蓄積されれば、宇宙環境における地球環境モニタが可能になるとともに、新しい科学分野が構築される。また低軌道衛星運用に役立つ宇宙大気の速報値を提供できて、さらに宇宙天気予報が可能になり、世界に貢献できる技術となる。この技術は、地球のみに留まらず、火星や金星への応用も期待できる。 研究代表者らは、宇宙推進用のイオンエンジンの開発に成功して、これを「はやぶさ」小惑星探査機に応用し、深宇宙動力航行を実施して目的小惑星「いとかわ」へのランデブーおよび地球帰還軌道への投入を成功させた。このイオンエンジンを地球周回で用いる場合、放射されたイオンビームは地球磁場に捕らえられ、ラーマー旋回しながら、高緯度領域の高層大気深部に侵入して、大気との電荷交換により中性粒子に戻り、地磁場に影響されず慣性飛行して地球を脱出して失われる。この機構を研究する過程にて、能動的に利用して高層中性大気の遠隔観測法を着想するに至った。既知の速度・時刻・場所から放射された、自然界では稀な粒子種のイオンを用いて、後天的に変換された高速中性粒子を遠方から観測すれば、高層中性大気の組成・密度・空間・時間分布を捕らえることができる。特に、クリプトンイオンは、高層大気の主成分である原子状酸素と選択的に反応する性質を持ち、また自然界には稀にしか存在しないため、観測用トレーサとして最適である。 これまでに、宇宙観測システムの机上検討に基づいて、キセノンイオンと酸素分子による実験室模擬にて観測原理を立証した。また提案者が発明・開発し、「はやぶさ」小惑星探査機にて宇宙実用したマイクロ波放電式イオンエンジンをキセノンからクリプトンへ変更することで、観測用イオンビーム源へ対応した。 ロケットや衛星を用いた実証試験や観測システム構築に向けて前進するには、クリプトン高速中性粒子観測装置の開発が課題であり、本研究課題の主目的である。クリプトン高速中性粒子の観測装置として具備するべき技術要件を以下に個条書きする。 ・観測対象粒子:クリプトン(原子量84、速度2keV程度、中性) ・飛来方向、飛来時刻、速度は1度、1秒、10eVの精度で既知 ・感度フラックス:100粒子/cm^2/秒以上、時間分解能:1秒 ・ノイズ成分:他高速中性粒子、イオン、紫外線 ・その他要件:ロケット・衛星搭載のため、軽量・省体積・低消費電力・耐振動環境性
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