人工衛星をはじめとする宇宙機では、太陽電池と組み合わせて、太陽からのエネルギーを備蓄して利用する観点から、化学反応の二次電池を使用することが一般的である。二次電池は、地球周回軌道においては主には日陰時の電力確保のために使用されるが、惑星探査機においては軌道上のほとんどの区間において遮蔽物が存在しないことから計画的な特別な姿勢変更や、不具合時等の姿勢回復までの電力確保のために搭載されている。このように、運用期間の大部分において放電することのない電池を搭載する場合、あるいは大きな電力を臨時的に確保するためには、燃料電池を用いるのが有利である。実際、衛星・探査機等においては姿勢制御用に燃料と酸化剤を搭載しており、これらは多くの場合ミッション終了時までの余剰分まで見越して搭載されるため、この余剰分を反応させて、電力に転換可能となれば衛星の運用性の向上が期待される。同時に、推進機関と電源系を統合的に扱うことができれば、システム構成上も有利となる。 一方、静止衛星を含め地球周回の人工衛星でも、システムの電力系は燃料の凍結防止を目的に常時大量の電力をヒータに供給するのに追われているのが現状で、これは惑星探査機の場合も同様である。たとえば-50degCの低温下でも凍結しない燃料、酸化剤を用いる推進機関を採用できれば、必要なヒータ電力を1/3にまで削減することができるほか、衛星・探査機システムを簡素化し、信頼性を大きく向上することにもつながる。このことは特に木星など外惑星へ飛行する探査機やオービタにおいては、太陽からの距離が拡大して太陽電池の発生電力が大きく低下するため、より効果的である。 この研究は、低温下で動作できる、推進系燃料・酸化剤を用いて発電を行う、燃料電池の開発を行うものである。すなわち、低温下で動作する、液-液反応型の推進系-電源系の統合型の燃料電池である。
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