国際熱核融合実験炉(ITER)のダイバータ等の極限環境下での使用が計画されているタングステン(W)の課題は、WA族遷移金属に特有な「脆さ」の克服である。この脆さの克服のためには、気孔を含まず、-粒界が極めて強化された再結晶・粒成長組織を導入することが最も有効であると考えられる。そこで本研究では、研究代表者等が先に開発した気孔率1%以下の超微細結晶粒W-TiCについて、高温超塑性を活用した独自の塑性加工法を発案し実施した結果、ほぼ目標とする高靭性W-TiCを試作することに成功した。試作したW-1.1%TiC(塑性加工材)は、残留気孔が無視でき、再結晶・粒成長組織を示すにもかかわらず、室温での3点曲げ強度が最大4.4GPaにも達し、破面は主に結晶粒内であり、室温で曲げ延性を示す。これは再結晶・粒成長組織における粒界が極めて強いことを示している。 再結晶・粒成長組織での粒界強化を実現できたことは、再結晶脆化に関する現在の認識(再結晶温度を高め再結晶させないことが唯一の再結晶脆化の防止策)に代わり、再結晶しても脆化しないW材料を開発可能であることを示唆する。これは画期的なことである。W材料は3410℃もの高融点と優れた多くの特性をもちながら、1000〜1500℃の低い温度で再結晶・粒成長して著しい再結晶脆化を示すために高温での使用が極めて限られているからである。粒界強度を維持した状態での結晶粒径の調整により、室温延性のさらなる向上が期待される。DBTTを室温以下にもち、ITERでの使用に必要な低エネルギープラズマに対する表面損傷や熱サイクルに強い高靭性W材料開発の見通しが得られた。 残された課題は、ITERのダイバータタイルに必要な寸法(31.3x28x12mm^3)にスケールアップ(大型化)する技術の確立である。
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