研究概要 |
インスリンは哺乳類においては主に代謝を制御するホルモンであるが,脳にも作用し,記憶学習に関与することも示唆されている。しかしその機能の詳細は不明である。我々は線虫C.エレガンスのインスリン様シグナル伝達経路が連合学習に必須であることを見いだしている。また,インスリン受容体とその下流で働くPI3キナーゼ経路が感覚神経ASERで働くことも明らかにしている。本年度,PI3キナーゼ経路の下流因子を同定する目的で,インスリン経路の機能が昂進したdaf-18変異体のサプレッサー変異体の解析を行った。すでにGqタンパク質をコードするeg1-30の活性化型変異体が得られているが,今回新たにグアニル酸シクラーゼをコードする遺伝子の変異体が得られた。この変異体はCl-イオンに対する化学走性が低下していた。また,この遺伝子が感覚神経ASERで働くことも確認した。学習を起こさせるC1-の刺激に依存してグアニル酸シクラーゼが働くことが学習に重要であることを示唆する結果である。また,細胞特異的プロモーターを用いた変異体のレスキュー実験により,インスリンINS-1を分泌する細胞を新たに検討したところ,RIC,ASIという2つの細胞のいずれかでの正常型ins-1の発現により,ins-1変異がレスキューされることが明らかとなった。これらは飢餓シグナルを伝えている可能性があり,機能解析を進めている。チャネルロドプシンを用いてins-1分泌細胞を人為的に活性化する実験も進めたが,今のところ目だった効果は得られていない。
|