研究概要 |
これまでの研究で,エゾヤチネズミ個体群の変動様式には明瞭な地理的勾配が見られるが,遺伝的空間構造は地理的な距離や地形を反映しないことが明らかになっている.本研究の目的は,個体数が激減し,低密度になることによって起こるボトルネック効果の程度が地域的に異なるため,遺伝的浮動にも地域差が生じて複雑な遺伝的空間構造がもたらされるという仮説を検証することである.本年度は(1)分布を拡大してから比較的歴史の浅い個体群では,遺伝的な分化に関して突然変異の蓄積よりも遺伝的浮動のほうがより大きな効果を持つ,(2)孤立性が高くかつ頻繁にボトルネックを経験している個体群間の遺伝的距離は離れているが,高密度で安定している個体群は祖先的な遺伝的特徴を多く保持しているために互いに類似性が高くなる,ことを中心に調査,分析を進めた. (1)に関する試料を得るためにウラジオストック周辺の原生林で標本の採取を行った.2007年はヤチネズミ類個体群の低密度年にあたり,採集は困難を極め,3個体を得るのみだった.しかし,多数の生息地を予備調査し,平成20年度の調査の候補地を決定することができた.また,現地のロシア科学アカデミーと標本の交換などで協力することになった.(2)に関しては主に低密度地域の標本の採取,分析に力点をおいた.その結果,道南地方を除いてほぼ北海道をカバーする個体群の標本を得ることができた.平成20年度,道南地方の6-8地点で採集調査を行えば,研究目的を達成することが可能な標本を揃えることができる.
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