研究概要 |
人為影響の低い常緑広葉樹林に1haの調査区を設定した。林冠に到達している樹木のうち、優占するマキ科針葉樹種とマテバシイ属広葉樹種それぞれにつき5反復個体を選定した。幹を交点とし、4方向に長さ5mのトランセクトを設定し、トランセクトに沿って、一定距離毎に深度別の土壌サンプルを採集した。サンプルは冷蔵して実験室に持ち帰り、純水を加えて振とうし、遠心分離後に0.2μmのメンブレン・フィルターで濾過し土壌水を採集した。これを検体として、比色法で溶存総フェノール物質の濃度及び縮合タンニン濃度を測定した。さらに、新鮮なリターと土壌表層から分解途上のリターを採集し、可溶性フェノール濃度、縮合タンニン、窒素濃度、炭素濃度を決定した。土壌サンプルについては、pH、含水率、各種酵素活性(リン酸分解酵素、β-D-Glucosidase,Phenol Oxidase,Peroxidase)を測定した。リターとして地表に加わる縮合タンニン量の平均値は、針葉樹下でより高かった。土壌中の総フェノール濃度の深度変化を検討したところ、濃度自体は深度の増加とともに減少した。しかし、有機態炭素に対する総フェノール濃度の相対値は、深度の増加とともに増加し、このパターンはフェノール性物質の難分解性を示唆した。酵素活性に対する樹種と距離の効果を検証したところ、β-D-GlucosidaseとPhenol Oxidaseにおいて有意な樹種と距離の効果が認められた。また、Peroxidase活性は土壌有機態炭素当たりの総フェノール量と正の相関があった。以上から、ポリフェノール含有量の異なるリターを生産する樹種の周りに、親木特異的なリターが落下し、樹種依存的なポリフェノール含有量の土壌が形成され、これが酵素活性に影響を及ぼしていることが示唆された。
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