森林生態系では、樹木リターはその樹冠下に落ち堆積するので、リターに含まれるポリフェノール濃度に依存した濃度の、難分解性タンパク質-ポリフェノール複合体が土壌にモザイク状に形成される。異なる濃度のタンパク質-ポリフェノール複合体は、土壌微生物に対して異なる選択圧として働く。この研究では、樹種特異的な組成を持つ土壌微生物群集が局所的に土壌表層に形成され、分解にかかわる土壌微生物の分解酵素活性に局在化が生じ、樹木実生の分布に影響を与えることを解明する。当年度は、タンパク質-ポリフェノール複合体が土壌にモザイク状に形成された際に、その形成が土壌栄養塩の可給性にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした。土壌栄養塩可給性については、陽イオン・陰イオン交換樹脂を土壌中に一定時間埋設し、無機化した窒素やリンをトラップする方法を用いた。H20年度までに定義された土壌微生物群集の広がりに応じて、高密度にイオン交換トラップを埋設した。2週間後に全てのトラップを回収し、超純水で洗浄後に室温で1週間乾燥させ、乾燥後にイオン交換樹脂を抽出液(0.1N HCIに2M KClを溶解した溶液)に加え、振とうしてトラップされた土壌栄養塩(陽イオンおよび陰イオン)を遊離させた。遊離した陽イオン・陰イオンを多元素測定装置1CPにより定量した。また、土壌を採集し、実験室の一定温度で培養することにより、土壌窒素の純無機化速度を求めた。その結果、高濃度の土壌ポリフェノールが存在する針葉樹下土壌では広葉樹下よりも、土壌窒素の純無機化速度が有意に低く、リン酸フラックスが高い傾向にあった。高いリン酸フラックスは、高濃度の土壌ポリフェノールで優占する真菌類とその分解機能に関係しているものと解釈された。
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