研究概要 |
(1)交尾する時刻(繁殖のタイミング)が大幅にずれたため、生殖隔離の認められるウリミバエの2つの系統、ショート系統(S)とロング系統(L)について時計遺伝子の塩基配列を比較した。今年度は、すでに4つの時計遺伝子(per: period, dbt: doubletime, cry: cryptochrome, sgg: shaggy)について、cDNAの全長のクローニングを終え、塩基・アミノ酸配列の決定を行った。またその他の3個の時計遺伝子(tim: timeless, clk: clock, cyc: cycle)についてはすでに遺伝子配列の断片シークエンスを取得した。(2)SとLの全塩基配列を特定した遺伝子のうち、per遺伝子のアミノ酸コード領域には、有意なアミノ酸置換は認められなかった。これに対し、dbt遺伝子では1個のアミノ酸置換(53番目アミノ酸がSではSer、 LではLeu)が、光入力系に関与するcry遺伝子では2個のアミノ酸置換:285番目がSではArg、 LではLys、502番目がSではLys、 LではAsn)がそれぞれコード領域内に見られた。(3)このうちdbtについては、キイロショウジョウバエへのウリミバエ時計遺伝子の導入を行いウリミバエdbtを持つキイロショウジョウバエの概日リズムを解析中である。またcry遺伝子502番目についてはSNP解析の手法確立に成功し、8個のウリミバエ飼育集団についてアミノ酸置換率を推定した。その結果、cry遺伝子502番目アミノ酸がLysに置換した集団は、Asnである集団に比べて、概日周期長と発育期間が長く、交尾時刻が遅かった。また表現型変異が中間に位置する集団では、Lys型とAsn型が混在し、このサイトの交配隔離への関与が強く示唆された。(4)今後、他の時計遺伝子のアミノ酸置換検出と併せて、系統間の置換サイトについてキイロショウジョウバエ培養細胞への導入、及びRNA干渉によるmRNA発現周期および交尾時刻への影響を追跡する。(5)ホストレースによって交尾開始時刻の異なるニカメイガの概日リズムを調べたところ、発育期間の長く遅い時刻に交尾するマコモ系統は、早く発育し交尾時刻の早いイネ系統に比べて、有意に長い概日自由進行周期(体内時計の長さ)を持つことも明らかとなり、体内時計と支配する測時機構の野生ホストレース化への関与も示唆された。
|