植物は、土壌から必要な栄養塩を吸収し、維管束を通じて各組織へ分配していく。また、生体内に取り込まれた栄養塩の一部は、老化組織から若年組織へとやはり維管束を通じて転流していく。これまでのところ、その生理機構に比べて実際に維管束に栄養塩がどのように取り込まれていき、維管束を通じて流れてきた栄養塩が、各細胞にどのように分配されていくかの分子レベルの機構はほとんど理解されていない。本研究は、植物体地上部における栄養塩(特にリン酸イオンを中心とした)利用能としての維管束分配と転流について、分配・転流に関与する分子機構を栄養塩の環境解析、膜輸送能、細胞間輸送機構に基づいて明らかにすることを目指した。本年度は、1.道管を通じた根からの栄養塩類の分配を明らかにするために、葉組織において、維管束系と葉肉細胞を生きたまま単離する系を開発することに成功した。この系を用いて、維管束と葉肉細胞で発現している遺伝子を別々にDNAアレイを用いて解析し、二つの組織の分化状態を、主に生体膜輸送体の遺伝子に注目して解析した。また、維管束から運び込まれた栄養塩(主にリン酸イオン)がどのように葉肉細胞に取り込まれるのかを解析し、葉肉細胞にはほとんど輸送体が発現していないこと、道管周囲の細胞にリン酸輸送体が発現することで、リン酸イオンはシンプラスト経路を取って、葉肉細胞に輸送されていく可能性が示唆された。また、2.篩管を通じた転流機構を解析するために、埼玉大西田博士の単離された伴細胞と篩管細胞の原形質連絡に異常のあるシロイヌナズナ個体において、生理解析を始めている。
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