研究概要 |
今年度は土壌性鞭毛虫類の多様性解明を引き続きおこなうとともに,中でも予想外の多様性が明らかになりつつある土壌性黄金色藻類のParaphysomonasについて集中的に研究を実施した。また,ほとんど報告のない土壌性の渦鞭毛藻類も発見したのでそれについても報告する。土壌より14株(羅臼,大黒島,北大構内(北海道),〓谷(徳島),裏磐梯(福島))、淡水より1株(柳沼(福島))のParaphysomonas培養株を確立し、これら全てが既知種とは形態的・遺伝的に異なることを明らかにした。興味深い事に分子系統解析により土壌性Paraphysomonasは独自のクレードを形成した(淡水、海水産のものを少数含む)。このクレード内では,通常種の識別に用いられる鱗片形態の差は小さいにもかかわらず遺伝的距離が大きい。ここに含まれる「種」は別種として扱うのが妥当である。土壌と淡水は隣接しているがために、土壌鞭毛虫類と淡水産鞭毛虫類は共通種が存在すると考えがちである。しかしながら,今回の研究結果は土壌性の鞭毛虫は土壌という環境中で独自の進化を遂げている可能性が高いことを示しており,土壌性鞭毛虫類の進化・多様化を理解する上での意義は大きい。 一般に渦鞭毛藻類は水圏の住人であり土壌からはほとんど知られていなかった。今回その存在が明らかになった土壌性渦鞭毛藻はフィエステリア科に近縁であることが示された。2株のうち羅臼株は淡水産のTyrannodinium berolinenseとの近縁性を示したが(明らかに別種),香川株は解析方法によって結果が異なり、その類縁関係の解明には至らなかった。フィエステリア科は生活史戦略の多様な科として知られこれにさらに新たに土壌環境への適応に成功した種を発見したことは渦鞭毛藻の進化を考える上で重要な知見である。
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