ヒト細胞表面抗原蛋白質には、細胞の状況に合わせた多様な分子形態が存在し、その構造的特徴を免疫細胞表面受容体群が認識することにより免疫応答を調整する。これらの受容体群には、活性化型と抑制化型の相反するシグナルを伝達するペアのメンバーを有するペア型受容体群が存在し、両型のバランスにより免疫応答が制御されている。そこで、その分子認識を明らかにするため、代表的なペア型受容体群について相互作用解析、立体構造解析を駆使する。これによりペア型受容体群による免疫抑制機構を解明し、可溶型受容体あるいはリガンド抗原蛋白質を含む制御分子を設計し、免疫応答の人為的制御の基盤を築くことを目的とする。 本年度は、PILR群について解析が進んだので報告する。PILRはCD99のシアル酸が付加したO型糖鎖を認識する。そこで、活性型および抑制型PILRを大腸菌で封入体として作製し、これを巻き戻すことにより組換えタンパク質を調製した。CD99は糖鎖修飾が必須であったので、ヒト293細胞で発現させた。これらを用いて表面プラズモン共鳴による相互作用解析を行ったところ、抑制型PILRは解離定数が10^<-6>M程度と弱い結合で、速い速度論的認識を示した。活性型PILRはさらに10倍以上弱い結合を示した。また、熱力学的解析では、エンタルピー駆動型の認識で構造的に揺らぎの大きいCD99がPILRとの結合により固定され、大きなエントロピーの損失があると考えられた。これらの情報を基に今後の阻害剤開発に取組みたいと考えている。
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