膜結合プロテアーセであるADAM(A disintegrin and metalloproteinase)ファミリータンパク質は各種サイトカイン、増殖因子の切断遊離によるシグナル伝達や接着分子、細胞外マトリックス分子(ECH)、レセプター分子等の切断代謝に関与している。ADAMは細胞の恒常性維持のみならず癌化などの病態にも深<関与するため重要な創薬対象となっている。しかし構造生物学的知見が非常に乏しく、生理的な作用機構について良く分かっていない。本年度はADAMファミリーに属するタンパク質群のうち生理的な基質が明確であるラッセルクサリヘビ蛇毒由来の血液凝固第X因子活性化酵素であるRW-Xをモデル分子として着目し、結晶化・X線結晶構造解析を行い、基質認識機構の考察を行った。RVV-XはADAMと相同の重鎖に加え、C型レクチン様の二つの軽鎖を有するヘテロ三量体タンパク質である。結晶構造からは興味深い事に以前に我々が提案した超可変領域(Hyper variable region (HVR))が軽鎖の一つの相互作用部位となっていることか明らかになった。さらに2つの軽鎖は第X因子結合タンパク質であるX-bpと非常に高い立体構造の相同性を示し、軽鎖部分が第X因子のGlaドメインを特異的に認識するエクソサイトを形成することが示唆された。これを基にドッキングモデルとRW-Xによる第X因子活性化メカニズムを提案した。RVV-Xの結晶構造はADAMファミリータンパク質が分子進化的に基質特異性を獲得したことを示す興味深い事例であるとともに、空間的に離れた部位に存在するエクソサイトが他のADAMファミリータンパク質においてもターゲット特異性の決定に重要である可能性を示唆した。
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