研究概要 |
本研究課題では,i)染色体機能領域及び境界領域の形成機構に関する共通性と多様性の解明,及び,ii)染色体機能領域の形成に伴うヌクレオソーム構造変換機構の解明,を主目的としている。それぞれについて,当該年度の研究の成果を報告する。 i)の解析では,出芽酵母の接合型遺伝子座領域であるHMR locusに位置するtRNA遺伝子(RNAポリメラーゼIII転写系遺伝子)に焦点を当て,同遺伝子周辺領域の染色体機能領域及び境界領域の形成機構の解析を行った。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)であるSir2pの脱アセチル化活性が関与しないことを明らかにしていたが,同領域のヒストンH4-K16のアセチル化レベルが低く抑えられていることから,他のHDACの関与が考えられた。そこで,他のHDAC9種類それぞれに対してSir2pとの二重欠損株を作製し,ヒストンH4-K16のアセチル化レベルが上昇するかをクロマチン免疫沈降法により解析したが,アセチル化レベルの上昇は見られなかった。今後,H4-K16以外の残基の化学修飾の関与の可能性,RNAポリメラーゼIII転写系特有の因子の関与の可能性等を検証することで,同課題の解決を目指す。 ii)の解析では,ヒストンシャペロンCIAと転写基本因子TFIID最大サブユニットであるCCG1のブロモドメイン(アセチル化残基認識ドメイン)との複合体立体構造を,X線結晶構造解析により3.3Aの解像能で明らかにした。本結果及び研究代表者が解明したCIA-ヒストンH3-H4複合体構造により,細胞内外から伝達された情報の集約と考えられるヒストン化学修飾からヌクレオソーム構造変換反応に至るまでのDECODE過程の反応中間状態を世界に先駆けて示すことができた。また,ヒストン化学修飾,脱修飾による染色体機能領域の規定からヌクレオソーム構造変換による染色体機能領域の形成に至る反応の流れを予測可能にした点でも,当該研究の前進に大きく貢献したといえる。
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