本研究は、小型淡水魚ゼブラフィッシュにおける生殖細胞・体細胞の分化確立過程に働くmiRNA翻訳制御システムをモデル解析系として、miRNAの生化学的な作用機序を明らかにするとともに、miRNAによる制御システムの生理的役割について理解を目指すものである。 ゼブラフィッシュ初期発生過程において、生殖細胞形成に働くnanos1およびTDRD7mRNAは体細胞でmiR-430による発現抑制を受ける。これに対し、始原生殖細胞にもmiR-430が存在しているが、何らかの機構でこれらのmRNA特異的にmiR-430による抑制がキャンセルされる。本研究では、ゼブラフィッシュ受精卵へのレポーターmRNAインジェクション実験系を用い、RNA結合蛋白質であるDAZL蛋白質を強制発現すると、体細胞においてもnanos1やTDRD7mRNAの安定化が促進されて発現活性化されることを明らかにしてきた。今年度、DAZL蛋白質がこれらのmRNAのポリA鎖を伸長化することでmiR-430による抑制を解除することを示した。また、miRNA認識配列を持たないmRNAにおいても、DAZL蛋白質の結合によってポリA鎖伸長化が引き起こされることが示唆された。これらの結果から、ゼブラフィッシュ生殖細胞では、DAZL蛋白質がポリA鎖伸長化を介してmiR-430によるnanos1やTDRD7mRNAの発現抑制をキャンセルし、生殖細胞分化を押し進めていることが明らかとなった。
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