研究概要 |
申請者らはPhospholipaseCδ1(PLCδ1)の遺伝子欠損(KO)マウスを作製し、PLCδ1KOマウスが毛包の形態異常を伴う顕著な体毛の減少を示すことを報告してきた。PLCδ1KOマウスとよく似たマウスとして転写因子Foxn1が先天的に変異しているヌードマウスが知られている。ヌードマウスでは、毛を構成する主なケラチンの一つであるmHa3遺伝子の発現が低下し、無毛となる。PLCδ1KOマウス体毛減少のメカニズムを詳細に検討した所、ヌードマウスと同様にPLCδ1KOマウスの皮膚においてもmHa3遺伝子の発現が低下していることを見出した。そこで第一にヌードマウスとPLCδ1KOマウスとの関連性を検討した。 1.PLCδ1はヌードマウスシグナル(Foxn1)の下流に存在する:ヌードマウスとPLCδ1KOマウスの皮膚構造の類似性を電顕で検討した所、毛が平たくなっていることなどの類似性が観察された。次に毛包におけるFoxn1,PLCδ1,mHa3の局在をin situ hybridizationにより検討した所、これらのmRNAはいずれも毛の形成に重要なprecortex部位に発現が見られ、機能的な関連性が高いことが示唆された。また毛周期におけるFoxn1,PLCδ1,mHa3の発現変化にも強い相関がみられた。次にFoxn1とPLCδ1のシグナルの関連性を明らかにするため、U20S細胞にFoxn1を強制発現した所、PLCδ1の発現が誘導された。更にヌードマウスの皮膚において顕著なPLCδ1発現量の減少が確認された。このことは、Foxn1→PLCδ1→mHa3というシグナルの流れが存在することを示している。 2.「ヌードマウスの体毛減少はPLCδ1欠損が原因である」ことの個体レベルでの検証:ヌードマウスの体毛減少がPLCδ1の発現低下のみで説明できるのであれば、ヌードマウスにPLCδ1を発現させることにより、体毛が正常に形成されるようになることが期待される。そこで、ヌードマウスの原因遺伝子であるFoxn1プロモーター制御下でPLCδ1cDNAを発現するTGマウスを作製した。現在TGマウスとヌードマウスと交配中であるので、今後ヌードマウスの無毛がレスキューできるかを検討する。
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