本研究は、病原体感染に伴うイノシトールリン脂質群(PIPs)の動態を解析し、最終的には「PIPs動態の人為的操作による病原体感染制御(感染防御・排除)の可能性を検討」することを目的としている。本年度の研究では、まずマウス神経芽腫N2a細胞を用いた病原性プリオン蛋白質(PrPSc)のcell-to-cell伝播アッセイ系を構築した。本アッセイ系ではPrPScの伝播が3-5日で観察でき、これまで異なる細胞系で報告されていた類似のアッセイ系と比較して1/10程度の時間で伝播を評価できることから、PrPSc伝播におけるPIPs代謝酵素群の役割の評価がより容易に行えるようになった。また、PrPScの細胞内局在を検証するために、プロテイナーゼK処理およびグアニジン塩酸処理を組み合わせ、PrPScに対して高い選択性を示す間接抗体染色法を開発した。前年度に開発したPIPs蛍光プローブおよび本法を用いてPIPsとPrPScとの細胞内局在の比較を行ったところ、アグリソーム様の細胞内オルガネラにおいてPrPScとある種のPIPsが共局在することを新たに見いだした。さらにC型肝炎ウイルス(HCV)をモデル病原体として用いた一連の研究からは、HCV感染に伴い、感染後1時間の間にmTORの活性が一過的に減少した後再び上昇するという興味深い知見を得ることができた。この時、AKTやPDK1の活性には変化が見られないことから、HCVはこれらを介さない未知のシグナル伝達系を利用してmTOR活性を制御することが示唆された。
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