研究課題
神経栄養因子は神経回路形成や記憶学習機能に不可欠な分泌因子である。神経栄養因子のうち、脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotrophic Factor;BDNFと略)は海馬や小脳、大脳皮質に豊富に存在する。近年、活動依存的なシナプスの形成やシナプス伝達の調節において、BDNFとその受容体TrkBのふるまいが非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。本年度はシナプス伝達におけるBDNFの作用を可視化しつつ、シナプス活動を記録する実験系の構築をおこなった。まず、蛍光1分子観察が可能な正立型落射蛍光顕微鏡を試作し、これにダブルパッチクランプ記録可能な電気生理学計測装置を導入した。また、BDNFを蛍光色素Cy3で標識した蛍光BDNFを新たに合成した。この蛍光BDNFをニワトリ胚15-18日胚の小脳スライス標本に投与し、電気生理学用正立蛍光顕微鏡を用いて観察した。数ナノモーラの濃度で投与した蛍光BDNFは小脳スライス標本の中でも特に、Bergmann gliaをはじめとするグリア細胞の膜表面に結合することが明らかとなった。また、15日胚由来の小脳スライス標本内では、Bergmann gliaに取り込まれたBDNFが逆行的に軸索輸送される様子も観察された。一方、蛍光BDNFのプルキンエ細胞をはじめとする神経細胞への結合は、グリア細胞への結合と比較して少ないことが観察された。Bergmann gliaは小脳の平行線維や登上線維などの神経線維とグルタミン酸を介した伝達機構をもち、神経細胞様の性質をもつきわめて興味深いグリア細胞である。目下電子生理学的な記録を併用することにより、BDNFによるBergmann gliaの電気的応答変化について検討している。
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