研究概要 |
広い時空間で蛋白質分子機能の詳細な原理を解明するため、これまで十分な知見が得られてこなかったナノからサブマイクロ秒領域のダイナミクスに注目し、分子シミュレーションを用いて機能と密接に結びつく蛋白質ダイナミクスを観察し、超異方性とフラストレーションという観点から明らかにすることを研究目的としている。平成21年度は、まずA.素過程観測で成果があった。この研究では、長時間分子シミュレーションによってサブマイクロ秒領域までの超異方的な蛋白質ダイナミクスの素過程を観測し、詳細な時系列解析からダイナミックなメカニズムを明らかにする。蛋白質GlnBPの研究では、2つの独立のトラジェクトリにおいてグルガミンが結合した際の最初におこる2つのドメイン間にあるヒンジ部位の局所的な構造変化が更にそれに続くドメイン運動を誘引することを明らかにすることができた。B.エネルギー地形解析では、自由エネルギー地形を計算する手法の開発を進めており、ペプチドでのテスト計算を終えて、蛋白質での研究を展開している。C.摂動の効果では、FlhAc蛋白質の大規模ドメイン運動に関するアミノ酸変異の効果を明らかにすることができた。またD.機能ダイナミクス相関でも大きな進展があった。我々はカップリングをよりシステマティックに解析するために、独立部分空間解析を用いて有意に相関を持つ集団座標を決定する手法を開発し、厳密な数学的な枠組みでダイナミックスのカップリングを解析できることを示した(Sakuraba, et al.,投稿中)。従来法の主成分分析では、原子揺らぎの2次キュムラントに基づいてゆらぎの大きな集団座標を定義するが、微小な揺らぎが寄与する可能性があるカップリング解析には適さない。我々は白色化の利用と高次キュムラントへの着眼によって、ゆらぎの振幅に依存せずに集団座標上の運動相関を解析できることを示した。
|