研究概要 |
大腸菌走化性受容体は,菌の極で巨大クラスターを形成する.この性質は,シグナルの増幅や適応に重要であるが,走化性受容体がどのようにして細胞の極に局在するのかという基本的な疑問については全くわかっていない.本研究では,これまでの走化性システムに関する研究を発展させつつ,より視野を広げて,細胞骨格系や脂質との相互作用,走化性以外の環境応答系の局在,コレラ菌におけるパラレルな3つの走化性類似システムの使い分けや病原性との関連なども含めて解析している.本年度得られたおもな成果は,以下のとおりである. (1)膜貫通型蛋白質の細胞内局在化機構:極に局在する大腸菌異種走化性受容体ダイマー同士が相互作用すること,それが局在にも重要であることを示した.一方,全反射型蛍光顕微鏡を用いた解析により,細胞膜中での受容体蛋白質(GFP融合体)の動きは細胞骨格またはそれに付随する構造により制限されることを見出した.さらに,全部で26種ある大腸菌膜貫通型ヒスチジンキナーゼのGFP融合体について局在を観察し,種類によって特徴的な局在(膜全体・極・隔壁など)を示すことを見出した. (2)コレラ菌における3組の走化性相同システムの機能と局在:コレラ菌は,3組のChe蛋白質群(Cheシステム)および45種の走化性受容体様蛋白質をもつ.このようなパラレルなシグナル伝達系が,どのように使い分けられているのか解析するため,GFP融合体を作製した.とくに,走化性に直接関与しない系の構成蛋白質が,微好気条件下でのみ極局在を示すことを見出した.
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