固体NMRを用いて7回膜貫通蛋白質について、脂質二重膜に再構成した状態で構造決定を行うことが目的である。この研究過程で膜蛋白質に最適化した固体NMR方法論の開発も行なった。対象にする膜蛋白質は、次の大量試料調製法が確立して、脂質二重膜への再構成も可能な系である。光センサーであるフォボロドプシンpRとそのトランスデュサーであるpHtrIIの複合体、そしてイオンポンプであるハロロドプシンphRについて原子分解能で立体構造解析を行なった。また、FOF1-ATP合成酵素の膜貫通領域FOを構成している二回膜貫通のcサブユニットについて、固体NMR構造解析を行った。 その核間距離情報の取得では、蛋白質内の核間距離相関、蛋白質とリン脂質の原子問距離、脂質二重膜外の水分子と蛋白質の距離相関、部位特異的スピンラベルを用いた長距離測定を行い膜蛋白質の全構造解析を行なった。また固体NMRデータ解析による構造決定では、化学シフトから得た二面角と距離相関から得た情報を組み合わせて構造解析を行った。距離相関の帰属は、スピン対への帰属と構造決定を同時に行う方法で、構造を収束させながら、その構造情報も利用して距離相関情報のスピン対への帰属を進めた。データ解析にはCharmmなどの脂質膜環境を考慮したシミュレーテド・アニーリング法を用いた。 また、蛋白質の構造をほぼ決める時には、リン脂質二重膜のリン原子と炭化水素鎖、水層の水との相対的位置関係を求めた。ハロロドプシンについては、塩素イオン結合による構造変化を解析した。フォボロドプシンとそのトランスデューサでは、脂質膜との相対関係を初めて明らかにすることより、その膜を介した信号伝達機構を議論した。サブユニットcについては、FOリング回転機構について提案されているモデルとの比較を行った。
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