G蛋白質共役型受容体(GPCR)は様々な細胞外由来の刺激(情報伝達物質、ホルモンなど)に応答するために多くの種類存在するが、各々は生体内での発現量が少ない。また各種培養細胞系を用いた強制発現についても成功例は限られているため、蛋白質レベルでの研究の進展は緩やかなものにとどまっている。モデルとして光受容体ロドプシンの構造解析研究を発展させることは、その活性化メカニズムを理解する上でも、構造未知の受容体研究を促進する上でも重要である。ロドプシン分子の7回膜貫通ヘリックス領域は、多くのGPCRと相同性があり、また情報受容機能の点で重要なリガンド結合部位も含んでいるため、詳細な構造解析ターゲットとして興味深い。本研究では、この領域における内在性水分子・水素結合の動態や活性制御部位を明らかにすることを目的としている。本年度は、ウシ視細胞由来の精製ロドプシン試料を用いた既知の高分解能結晶化条件において、特に活性調節効果が類縁受容体で報告されているβ-イオノンとの共結晶から良質のX線回折データが得られたので、電子密度計算によって結合部位を同定するとともに、Harvard Medical Schoolとの共同研究により共結晶の顕微分光測定も行い、ロドプシン分子への選択的な結合を確認することができた。結合部位は、第6、第7膜貫通ヘリックスをつなぐループ部分にあり、天然のリガンドであるレチナール結合部位に通ずるゲートと思われる領域の近くに位置することが明らかになった。このような結果は、GPCRの疎水性表面への特異的な低分子結合を示した初めての例である。
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