本研究課題は、プロテオミクスを用いた蛋白質の網羅的な同定、定量技術を交えてヘテロクロマチンの構成因子として知られているHP1結合蛋白質を解析し、α、β、γのそれぞれのサブタイプが、1)どの因子と、2)細胞周期のどの時期に、3)染色体上のどの領域において、相互作用しているかを網羅的に明らかにすることにより、その結果を基軸としてHP1が染色体の維持・伝達において如何に寄与しているかについて、ヒト培養細胞を用いてアプローチするものである。 本年度は、HP1がどのような因子と結合しているのかについて、HP1の変異と定量プロテオミクスによる解析を行った。具体的には、Flagタグした野生型、変異HP1αの発現を誘導できるヒト293細胞株を樹立し、Flag抗体による免疫沈降を行った。免疫沈降産物をプロテオミクスを用いて解析したところ、Mis12、 CAF1、 KAP1に加えて、Aurora B、 BorealinなどCPC複合体の構成因子やPOGOなど新規HP1結合因子を含む60種類以上のタンパク質を同定した。同定した全てのHP1結合因子はCSDに結合し、HP1のダイマー形成が必要であることが示唆された。CAF1やKAP1などの多くの因子はHP1結合コンセンサスを介してHP1と結合しており、HP1のダイマー形成により生じる疎水ポケットの形成に必要なアミノ酸の変異により結合できなくなる。しかしながら、この変異に影響を受けないPOGOなど数種類の因子が存在することが明らかとなり、疎水ポケットを介さない新たな結合様式の存在が示唆された。また、ある種のヒストン修飾酵素などは、ヒストンH3のテールの認識と結合に関与しているCDのアミノ酸の変異に影響を受けた。このことから、CSDだけでなくCDもHP1と相互作用因子との結合様式に何らかの関わりがあることが示唆された。
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