ヒストンH3のアセチル化やメチル化などの修飾は、エピジェネティックな遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている。本研究は、クロマチン免疫沈降(ChIP; chromatin immunoprecipitation)とプロテオミクスを用いた生化学的方法、及び、蛍光標識抗体を用いた細胞生物学的方法により、特異的な修飾をもつヒストンが濃縮されたクロマチンの構造と動態を明らかにすることを目的として行なっている。まず、ヒストンH3の9番目のLYsがアセチル化されたもの(H3K9ac)とトリメチル化されたもの(H3K9me3)をそれぞれ特異的に認識するモノクローナル抗体をカラムに固定した。そして、HeLa細胞から調製したクロマチンを用いてChIPを行い、細胞のクロスリンクや溶出の条件検討を行った。その結果、ホルムアルデヒドによるクロスリンクの時間が短いとDNA-ヒストン間に比べてヒストン-ヒストン間のクロスリンクが起こりづらいことが明らかになうた。また、酸性の緩衝液でカラムに結合した蛋白質を溶出することで、抗体成分を含まない免疫沈降産物が回収できた。結果的に、クロスリンクの有無やその長さに依存せず、H3K9acとH3K9me3は互いに排他的にそれぞれの特異的抗体により回収された。現在、質量分析法を用いて、これらのChIP産物に含まれるヒストン以外の蛋白質成分の同定を試みている。今後、他の特異的抗体カラムを作製し、また、ChIPをスケールアップして更なる解析を進める予定である。
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