ポリ(ADP-リボシル)化(PAR化)は蛋白質に最も大きな物性変化を与える翻訳後修飾の一つであり、様々な生命現象を調節する。本研究は、PAR化酵素(PARP)タンキラーゼ1の多機能性の破綻が細胞がん化形質にどのように関与するかを明らかにすることを目的とする。今年度は以下の成果を得た。1.タンキラーゼ1のテロメア機能における生物種間差:タンキラーゼ1はテロメア伸長抑制因子TRF1をPAR化し、これをテロメアから遊離する。我々は、タンキラーゼ1はマウスTRF1をPAR化せず、テロメアから遊離しないことを見出した。マウスでは、テロメアが長く、体細胞でも高いテロメラーゼ活性が認められることから、タンキラーゼ1がテロメア伸長因子として働く必然性が進化の過程で失われた可能性が示唆された。2.タンキラーゼ1変異体のテロメア伸長活性:TRF1をPAR化せずにテロメア結合因子POT1をテロメアから遊離させ、テロメアを伸長させるタンキラーゼ1変異体を作製した。これにより、タンキラーゼ1はTRF1のPAR化のみならず、PAR化非依存的メカニズムを介してもテロメア高次構造を制御する可能性が示唆された。3.タンキラーゼ1による細胞分裂制御:がん遺伝子オーロラAの過剰発現は細胞分裂の異常を引き起こす。我々は、タンキラーゼ1を細胞核内に過剰発現させるとオーロラAによる分裂異常が抑制されることを見出した。同効果はPARP不活性変異型タンキラーゼ1では認められなかったため、タンキラーゼ1は何らかの核内因子をPAR化することによって細胞分裂を制御している可能性が示唆された。4.PARP活性の可視化システム:PARP阻害剤はがん・虚血性脳・心疾患などの治療薬としての応用性が期待され、分子標的創薬における新たなシードとして脚光を浴びている。我々はイメージングによる細胞内PARP活性阻害評価系を構築した。
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