ゴルジ体ストレス応答は、細胞の需要に応じてゴルジ体の機能を増減させる調節機構であり、種々の疾患との関連が想定されているが、詳しい分子機構が明らかになっている小胞体ストレス応答機構に対してゴルジ体ストレス応答の研究は全く研究が行われていない。前年度までの研究によって、ヒトのゴルジ体ストレス応答の標的遺伝子を明らかにし、これらの標的遺伝子のゴルジ体ストレス応答による転写誘導を制御するエンハンサー配列GASEを同定した。今年度は、(1)糖鎖修飾酵素やゴルジ体構造形成因子などゴルジ体ストレス応答の標的遺伝子の多くがGASEによって転写制御されていることを明らかにし、また(2)GASE配列を詳細に解析した結果、コンセンサス配列がACGTGGCであることを見いだした。更に、(3)GASEに結合する転写因子を出芽酵母を用いたone hybrid screeningによって検索したところ、bHLH-ZIPモチーフを有する転写因子BigMaxを単離した。BigMaxに転写活性化領域を人工的に付加して細胞中で過剰発現したところ、ゴルジ体ストレス応答の標的遺伝子の転写がGASE依存的に促進された。これらのことは、BigMaxがゴルジ体ストレス応答の制御に関わる転写因子であることを示唆している。今後は、ゴルジ体ストレスによってBigMaxの発現や活性が調節されているかどうか、またその制御の分子機構について解析していく予定である。ヒトのゴルジ体ストレス応答の解析と同時に、出芽酵母のゴルジ体ストレス応答機構についても解析を開始し、今年度はゴルジ体ストレスを起こす酵母変異体sec7を用いた標的遺伝子の検索を行った、その結果、ゴルジ体での糖鎖修飾酵素やゴルジ体以降の小胞輸送に関わる遺伝子の転写がゴルジ体ストレスによって誘導されることを見いだした。今後は、これらの標的遺伝子の転写誘導を指標として転写誘導が起こらなくなる変異体を単離することによって、酵母のゴルジ体ストレス応答を制御する因子(転写因子、センサー分子、情報伝達因子)を網羅的に検索し、ヒトのゴルジ体ストレス応答の研究に役立てる計画である。
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