アフリカツメガエル卵細胞の受精機構を明らかにする目的で、卵細胞膜マイクロドメインに局在する分子群の機能解析を行ない、受精に伴い活性化するSrcチロシンキナーゼの上流制御因子の1つとして、ホスファチジルイノトール3キナーゼ(PI3K)を同定した。その概略は以下のとおりである。PI3Kの酵素活性を特異的に阻害する薬剤LY294002をあらかじめ微量注入しおいた卵細胞では、精子による卵活性化が起こらない。このとき卵SrcおよびホスホリパーゼCγの活性化、細胞内カルシウム濃度の一過的上昇、サイクリンBやmosプロテインキナーゼの分解、mitogen-activated protein kinase (MAPキナーゼ)の不活性化といった一連の卵活性化シグナル伝達反応がすべて抑制されていた。PI3KのサブユニットであるP85分子は未受精卵では非マイクロドメイン性の膜構造に存在するが、受精卵では一時的に細胞膜マイクロドメインへ移行することが明らかとなった。このとき、PI3Kによって活性化するAKTプロテインキナーゼも細胞膜マイクロドメインへ移行しており、しかもこのAKTは活性化の指標となるスレオニン残基のリン酸化を受けていことも示された。このことは細胞膜マイクロドメインが受精に伴うPI3KとAKTの集積/活性化の場として機能していること、さらにこのシグナル伝達がSrcチロシンキナーゼ以降のシグナル伝達に対してポジティブな効果を持つことを示唆している。これまでの解析からツメガエル卵の受精直後のシグナル伝達において、細胞膜マイクロドメイン局在性の膜貫通型分子ウロプラキンIIIの精子受容体としての働きが明らかにされつつあったが、今年度の研究成果は、さらに精子と卵の相互作用に伴うシグナル伝達機構を詳細に解明するうえで、有意義なものであったと思われる。本成果をまとめた論文は学術雑誌に投稿中である。
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