接ぎ木はリンゴなどの果樹では古くから活用されている農業技術であり、その長い歴史を通して優れた台木品種が選抜されてきた。特に矮性台木は穂木に矮化をもたらすことができるため、密植栽培様式を実現してきた。シロイヌナズナのGIBBRELLIC ACID INSENSITIVE(GAI)は植物ホルモンのジベレリンに関わる応答遺伝子群の抑制的転写因子であり、そのため、その変異遺伝子のひとつであるΔDELLA-GAI(gai)は機能獲得型変異遺伝子として働き、この遺伝子を強制発現させると植物は搖化する。さらに、これまでの実験から、このgai転写物を台木から穂木へ輸送させて穂木で発現させることで穂木が搖化することが判ってきた。以上の実験はタバコなどのgai導入体を台木にした接ぎ木実験で行われてきたが、果樹であるリンゴでの実験はこれまでなかった。そこで、リンゴの台木品種マルバカイドウに伴細胞特異的な発現を示すCommelina Yellow Mottle Virus Promoter(provided by Prof.N.Olszewski)でドライブするΔDELLA-GAI(gai)を導入し、その導入個体の特性を調査するとともに、搖化が明確に現れた系統を台木とした場合に、穂木にもその搖化性が伝達されるかどうかを検討した。その結果、遺伝子導入個体の1系統が獲得された。それらは対照区と比べて明らかな矮化の表現系が現れたことから、RNAやDNAゲルブロットの実験や、接ぎ木実験による穂木の搖化性誘導について興味がもたれた。一方、リンゴにおいても篩管輸送されるRNAが存在するかについて検討した。メロンで篩管輸送されるRNAと報告されたIAA14遺伝子の転写物の輸送を、リンゴ台木品種マルバカイドウと栽培品種ふじ間の接ぎ木個体で解析した結果、その輸送が確認された。これらのことから、リンゴでのRNA長距離輸送システムの応用性が注目された。
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