世界の多くの湖沼では流域からのリンの流入による富栄養化が進行しており、リンの流入を減少させること、および汚染された湖沼からのリンの回収が望まれている。植物種子に大量に蓄積するリン貯蔵物質フィチンを根や葉などの栄養器官に蓄積させることができれば、リンの超集積植物として湖沼からのリン回収に役立つ環境浄化植物が実現できる。また、消化の悪いフィチンを減少させて無機リンの形で種子に貯蔵させれば、畜舎から排出されるリンを軽減する環境負荷低減植物が実現する。本研究では、フィチン酸合成経路を明らかにし、その情報をもとに遺伝子組換え技術を用いてフィチン酸合成を制御し、高フィチン含有植物および低フィチン米を作出することを目的とする。 1.フィチン酸合成経路の解明 イノシトール三リン酸5/6キナーゼの発現抑制組換えイネおよび高発現組換えイネの解析から6遺伝子中、2遺伝子がフィチン酸合成に関与することを明らかにした。 2.プロモーターの開発 フィチン蓄積部位のうち、胚形成に影響がないアリューロン層でのフィチン酸合成抑制を目指すためアリューロン層特異的発現プロモーターを探索した。マイクロアレイ解析およびRT-PCR解析により、2候補遺伝子を特定した。また、オレオシンプロモーターをアリューロン層特異的プロモーターに改変するため、胚での発現を誘導するcis配列を推定し、それを除去したプロモーター4種を作出した。これら6種のプロモーターにGUSを連結させ、発現解析をするためのコンストラクトを作成した。 3.環境浄化植物作出に向けて フィチン酸合成の最初と最後のステップで働く2遺伝子の高発現組換えイネを交配し、後代を得た。後代から導入遺伝子をホモに持つ優良系統を選抜した。この系統を用いてイオンクロマト解析を行なったところ、葉におけるフィチン酸蓄積は確認できなかった。
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