研究概要 |
顕花植物に特有な自家不和合性は、自家受精を抑制し子孫の内婚弱勢を回避するのに寄与している遺伝的性質のひとつであり、進化の過程において植物ファミリー(科)ごとにそれぞれ異なる不和合性機構が確立されてきたと考えられている。本研究では、ヒルガオ科サツマイモ野生種の自家不和合性に関与する遺伝子を明らかにしその分子機構を解明するために、遺伝子地図に基づくポジショナル・クローニング法により、5種のSハプロタイプ(S1,S3,S10,S29,Sc)についてゲノム解析と遺伝子発現解析を行った。その結果、3種の雌蕊(柱頭)特異的遺伝子(SE1,SE2,SEA)と2種の雄蕊(葯・花粉)特異的遺伝子(AB2,AB3)が同定され、有力なS遺伝子候補を得た。自家和合性変異体のScハプロタイプでは、SEA,AB2,AB3.遺伝子の重複とSE2遺伝子の欠失が認められ、これらのいずれかが和合性変異に関与していると示唆された。これら遺伝子産物の蛋白質レベルでの分子的解析を行うため、候補S遺伝子を導入した大腸菌での発現と蛋白質の分離抽出、ならびに各遺伝子産物のペプチド抗体の作成を行った。その結果、大腸菌における蛋白質の誘導発現や雌蕊または雄蕊における蛋白質レベルでの発現が確認された。さらにS遺伝子候補を絞り込むために、センス・コンストラクトを導入した形質転換体を作出し自家不和合性形質への関与を調査した。この形質転換体実験で培養カルス細胞から分化した個体のうち、開花ステージに至った形質転換体の受粉試験において、導入したS1ハプロタイプのSE2遺伝子はS10柱頭の自家不和合性表現に影響を与える事が明らかとなった。本研究から、ヒルガオ科の自家不和合性に関与する雌蕊側S遺伝子としてSE2が、花粉側S遺伝子としてAB2がそれぞれ関与していることが示唆され、リセプター・リガンド相互作用による自他認識機構の関与が推測された
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