遺伝資源バンクで維持・保存している177系統の異種染色体添加パンコムギ系統の胚乳より種子貯蔵タンパク質(グルテニン・グリアジン)を抽出し、電気泳動により異種染色体由来のタンパク質を探索した。その結果、24系統でコムギにはないタンパク質の発現を認めた。これらの種子を増殖・製粉し、SDS沈降試験により製パン性を調査したところ、パンコムギより製パン性の向上を示す複数の系統が現れた。その中で、野生種Aegilops searsii染色体添加系統について注目し、近畿中国四国農業研究センターの協力により、この系統の小麦粉の物性を詳細について調べた。その結果、パンコムギには見られない優秀な性質をもっていることが明らかとなった。次に、Ae.searsiiの高分子量グルテニン遺伝子の全長配列を決定した。その結果、Ae.searsiiの高分子量グルテニンxおよびyサブユニットの遺伝子は、パンコムギの1D染色体に座乗する遺伝子に類似することが明らかとなった。これらの遺伝子に対して、Glu-S^slxおよびGlu-S^slyと名付けた。ところで、スクリーニングの過程で、添加系統と表記される多くの系統において、実際には染色体あるいは染色体の一部分を失が失われていることが明らかとなった。蛍光in situハイブリダイゼーションによる染色体の調査によって、消失あるいは欠失している染色体はどの系統においてもコムギの1D染色体であることが明らかとなった。この染色体には、コムギの製パン性に重要な遺伝子が座乗するため、1D染色体の逸失現象は、異種遺伝資源を小麦粉品質改良に使う際に、致命的である。系統保存において、1D染色体逸失が行われないように注意するとともに、製パン性を低下させる効果がある1A染色体と異種染色体を置換し、安定した系統を作る必要のあることが明らかになった。
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