大豆にはミオイノシトールにリン酸が6個結合した有機態リン酸化合物のフィチン酸が多く含まれている。フィチン酸は人間、豚、鶏などの単胃動物ではは消化・吸収できないために大量のリン酸が排泄され、環境汚染の一因となっている。さらに、フィチン酸にFe、Znなどの微量元素がキレート結合したフィチンは、Fe、Znの吸収を妨げる抗栄養成分として広く知られている。そこで、本課題ではフィチン酸に関わる多くの問題を解決するために、エチルメタンスルホン酸(EMS)処理し得られた突然変異体とわが国の奨励品種と交配し、その交雑種から生産性の高い低フィチン酸大豆の育成を行っている。わが国では大豆は豆腐などの加工食品として利用されているが、フィチン酸含量を低めた大豆の豆腐加工適性の評価試験はこれまでなされていない。低フィチン大豆を加工食品の材料として利用するためには、豆腐加工適性の評価は重要である。そこで、22年度には、21年度までに得られたF6系統について圃場栽培し、生育期間の生育状況調査および収穫後の子実重、百粒重、分枝数や子実の全リン酸、無機リン酸、フィチン態リン酸濃度を測定し低フィチン大豆を個体選抜した。さらに、低フィチン大豆を用いて充填豆腐を製造し、破断強度およびタンパク質組成などを測定した。その結果、親系統である普通栽培品種では、豆腐凝固剤にがり(塩化マグネシウム)の濃度が28mmol/Lで最大破断強度を示したが、濃度の減少に伴い破断強度は減少し12.6mmol/Lでは柔ちか過ぎて破断強度はなかった。それに対して、低フィチン大豆の破断強度は12.6mmol/Lでも依然として高かった。SDS-PAGEで解析したタンパク質組成には両系統間で大きな差は見られなかった。以上の結果から、フィチン酸が豆腐の加工適性に影響を及ぼすことを始めて明らかにし、この系統から新規な大豆品種の育成が可能となった。
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