研究概要 |
本研究の最終目的は、最近見つかったCardinium(C)とWolbachia(W)の比較を二つの点から行うことである。一つは、節足動物の性を操る体内共生微生物(C)が宿主の免疫応答に係わる遺伝子を活性化するにもかかわらず、宿主の遺伝子を活性化しないWよりも多くのハダニ類に寄生できる原因を解明することである。もう一つは、CとWが共にハダニで細胞質不和合性を引き起こし、ハダニの系統によっては不和合性を起こす場合と起こさない場合がある。これらが両細菌によって共通の基盤のもとに起こっているのかどうかを明らかにすることである。本年度は、以下の結果を得た。 1.Cardiniumによる生殖操作の解明と他の共生微生物との二重感染による相互作用の解明 C単感染の5属15種25個体群のうち、既報のスギナミハダニを除いて、新たにスミスアケハダニ(口之津)とニセカンザワハダニ(北海道14)個体群が生殖不和合性を誘導した。CとWの二重感染個体群では、いずれもWの効果であり、Cの干渉などは見られなかった。CとSpiroplasmaの二重感染は,ナミハダニR(七飯)個体群で見つかったが、生殖への作用はなかった。 2.Cardiniumによる遺伝的雄の雌性化 チャノヒメハダニの単為生殖系統と両性生殖系統を発見した。雄にはCの感染が認められなかったが、両性系統では少数であるが、安定して雄が生産された。今後、宿主の性や生殖に関連する遺伝子の解析に用いる予定である。 3.EST解析 ナミハダニのESTクローン約10,800クローンを対象に、免疫に関連するToll経路とIMD経路の遺伝子のblast検索を行った。IMD経路に係わる遺伝子を見つけることはできなかったが、Toll経路のToll、Pelle、Cactus遺伝子については、相同性のあるものが見つかった。 4.dsx-like geneの解析 ハダニから見つかったdsxに似た遺伝子は、遺伝子との結合ドメインを持ち、dsxに比べると小さなサイズの遺伝子であった。しかし、雌雄で同じmRNAが作られているという結果が得られ、雌雄間でのスプライシングの違いなどはなかった。
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