トノサマバッタを様々な条件で飼育し、典型的な群生相の特徴と比較する実験を開始した。大発生時または孤独相の野外個体の形態的特徴が判明している中国新疆と日本の系統を用いた。30℃にて、ケージ当たり1〜1000匹の孵化幼虫を飼育し、羽化後成虫的形態を測定し相変異研究で古典的に用いられているFC値(後腿節長/頭幅)とEF値(前翅長/後腿節長)を求め比較した。1000匹区では死亡率が80%を超えたため処分した。FC値は孤独相で大きく群生相で小さくなることが知られており、一方EFは群生相で小さくなることが知られている。予想通り、1〜100匹の間で、密度依存的にFC値は減少し、EF値は増加した。しかし、それらの値は、野外における大発生時の値と比べると孤独相的であった。次に、密度を一定(ケージ当たり100匹)にして温度の影響を調べたところ、高温区では夜間に餌が枯渇して死亡率が高くなった。そこで、夜間(12時間)の温度を17℃にし、昼間(12時間)の温度を様々に設定して形態への影響を調べた。夜間の温度を30、35、38、41℃にして飼育したところ、高温又は温度変化それ自体は群生相を生じさせる要因としては十分ではないことがわかった。来年度は、飼育方法を工夫して更により高い密度の影響を調査する必要がある。沖縄系統を用いて、形態変化に及ぼす世代の影響についての実験を開始した。世代と効果と飼育条件によるバラツキを区別するために、孤独相(1匹飼育)系統から毎世代群生相条件で飼育する区を作出し、孤独相、群生飼育1世代、2世代、3世代目の幼虫を同時に飼育する実験を準備中である。幼虫の活動性を孤独相と群生相で比較するために60個体の歩行活動を同時に記録できるアクトグラフを作成した。来年度はこの装置で日周リズム、サカーディアンリズムの有無、餌の影響等を調べ、相の違いによる行動の変化に関する実験を行う予定である。
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