研究概要 |
植物共生微生物であるアーバスキュラー菌根菌のリン酸吸収・濃縮・輸送のメカニズムを明らかにする目的で、以下の研究を行った。 1. 菌糸内のリン酸輸送における宿主植物蒸散の役割 「菌糸内のポリリン酸は植物の蒸散流に起因する背圧の一部を利用した菌糸内の水の移動により輸送される」との仮説に基づき、気孔閉塞作用のあるホルモン(ABA)の散布、暗期処理および地上部切除の3種類の処理を行って蒸散量を調節(抑制)したところ、ポリリン酸の菌糸内の移動量(速度)は植物の蒸散量(速度)に比例して減少した。ただし、地上部を切除して蒸散を完全に止めても少量のポリリン酸の移動が観察された。これらの結果から、ポリリン酸輸送の主要な駆動力は蒸散に起因する菌糸内の水の移動であることが明らかにされたと共に、一部は拡散によっても菌糸内を移動することを示唆していた。 2. 菌根菌菌糸のトランスクリプトーム(発現遺伝子の網羅的解析) 昨年度、菌糸の大量培養により得られた約5gの材料からRNAの効率的な抽出条件を確立し、FLXシステム(ロッシュ)によるmRNA(cDNA)のパイロシークエンス(1/2スケールガスケット使用)を行った。約53万リード(平均長375bp)のうち、8,000個以上のlong contig(>500bp以上)が得られた。これらの中には基礎代謝に関与する遺伝子群の他に、リン酸や陽イオンの吸収に関わる輸送体遺伝子群、ポリリン酸合成・分解に関わる遺伝子群の配列情報が網羅されていた。特に無機イオン吸収に関与すると推定される重要な輸送体遺伝子群に関しては、mRNAのほぼ全長に近い配列の情報が得られていたことから、今後、物質輸送に関する分子レベルでの研究を大きく展開する上で、極めて重要な情報が得られたと言える。
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