本研究では、ホウ素過剰の灌漑水や土壌でも収量の低下が少ないイネを育種することを目的として研究を進めてきた。まず、インディカ種、ジャポニカ種の多数の栽培品種を過剰害が発生するようなホウ素を含む土壌で栽培し、ホウ素過剰に対して耐性の品種を選抜した。多くのインディカ種と一部のジャポニカ種は感受性、多くのジャポニカ種は耐性であった。特にIRRIが育成したIR系統やカサラスは感受性、コシヒカリ、日本晴、熱研1号は耐性だった。登熟まで栽培して収量構成要素を比較したところ、ホウ素過剰は分げつ、登熟歩合を低下させ、これらの要因がホウ素過剰による収量低下をもたらしていた。水耕栽培において過剰耐性を検定するため、感受性のIR36と耐性の熱研1号を用いて地上部ホウ素含有率、地上部クロロフィル濃度、葉数、地上部長、根長などを比較したところ、ホウ素過剰存在下での地上部伸長の阻害の程度がホウ素過剰耐性をよく表現していることを見いだした。そこでホウ素過剰存在下での地上部長を指標にホウ素過剰耐性の程度を、RIL第9世代(F9)90系統を用いて評価し、この表現系と遺伝子型からホウ素過剰耐性に関係するQTL解析をすすめた。ホウ素過剰耐性を与えるQTLが4番染色体72.3cM付近に見いだされ、その寄与率は50%程度であった。さらに、RILの中からこの領域がヘテロな1系統の自殖後代を用いて、ホウ素過剰耐性遺伝子の座乗する領域の絞り込みを進め、約53kbに絞り込んだ。この領域には9個の遺伝子が存在すると推定され、現在、さらに絞り込みを続けている。また、これらの生理学的実験に加えて、コシヒカリのホウ素過剰耐性を評価し、10ppmまでのホウ素を含む灌漑水であれば収量が低下しないことを示した。
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