研究課題
腸球菌Enterococcus faecalisの病原因子の一つと言われるゼラチナーゼの生産は、GBAPと命名された環状ペプチドをオートインデューサーとしたクォーラムセンシング(QS)により制御されている。GBAPとその生合成酵素FsrB、GBAPのセンサーキナーゼFsrCはfsr遺伝子群にコードされており、このQS制御系はfsr制御系と呼ばれている。我々はこれまでに、(1)FsrBによるGBAPの生合成、(2)FsrCによるGBAPのシグナリング、この2つを阻害のターゲットポイントとするクォーラムセンシング阻害剤を天然物からのスクリーニングおよびドラッグデザインにより開発し、新しいタイプの抗菌剤を創製することを目指した研究を行ってきた。(1)においては、FsrBを標的とするQS阻害物質として、既知の糸状菌二次代謝産物ambuic acidが腸球菌のQSを10μMレベルで阻害することを見出した。Ambuic acidは、FsrBによるGBAP前駆体(FsrD)のプロセシングを阻害し、その結果、GBAPの生産が阻害され、QSが阻害されていることが判明した。またAmbuic acidは、同様に黄色ブドウ球菌のQSシグナルであるAIPやリステリア菌のQSシグナルであるLsrDの生合成も阻害し、ブドウ球菌においてはQSにより誘導されるヘモリシンの生産も抑制することが示された。今後、本物質をリード化合物としてより活性の高い分子を育種することで、抗感染症剤として有効利用可能な化合物の作出ができると期待される。(2)においては、GBAPの7残基目のPheが受容体FsrCとの結合に、10残基目のTrpがGBAPの立体構造維持に重要であることを見出した。またFsrCのTyr-112がシグナル伝達に重要な役割を果たしていることも見出した。今後、これらの構造機能情報を基にGBAPアンタゴニストを創製していけるものと考えている。
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